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それだけで僕は救われる

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アカデミーで彼女を見たのは、今から2年前だったと思う。


その日おれはいつも通り悪戯なんかして、呼び出しをくらっていた。
いつもならイルカ先生なんだけど、たまたま出張でいなかったのだ。


「聞いているのか、うずまき。」
ぼんやりと説教を聞き流していると、そう一瞥された。
こいつは、おれが先生の中でも大っ嫌いな奴だった。
名前すら、覚えていない。


「大体お前はいつもそうだ。覚えようとしない。そうだろ?」
そいつの目が嫌だった。
他の大人と同じ、見下す目。
おれを『化け物』としてみている目に、親しみなんて感じるはずもなく。
おれも、同じように憎んだ目を返す。


「・・・なんだ、その目は。」
おれの睨んだ視線に気がついたそいつは、そういっておれと向き直る。
この目がどうかしたのか?
お前と同じ目じゃないか。


「うずまき、お前いい加減にしろよ。」
そいつはおれと睨み合いながら、さりげなく周りを見渡す。
放課後の職員室には、おれとそいつ以外誰もいなかった。
おれには、こいつが何をしたいのかわかっていた。


「ふん。・・・前から一度、お前を殴ってやりたかったんだ・・・。」
静かな口調だったが、目はさらに据わっていた。
おれは黙って睨みつづけた。


「お前が言うことを聞かないからだ。」
そいつはゆっくりと椅子から立ち上がり、丁寧に腕まくりをする。
少なくとも、『化け物』以上の目をしていた。


「・・・チクんなよ。そんなことしたら、殴るだけじゃ済まさないからな。」
そいつは興奮しきった目で睨みながら、唇を白っぽい舌で舐めた。
「怖いだろう?」
 
 
「・・・狂ってる。」
おれはいいながら、そいつの拳が向かってくるのを待った。
もちろん、易々と殴られるつもりはない。
寸前でよけてから、逆に殴る。
自信はあった。
・・・一度や二度のことではない。経験も、あった。


そいつが腕を振り上げた時。


ガラッ


扉が開く音がした。
はっとしておれとそいつが振り向くと、そこには女の子が立っていた。
桃色の髪をもった子だった。
女の子は驚く様子もなくこちらを見ている。


「・・・・・・春野。」
「先生、プリント集めてきました。」
そいつの乾いた声と、女の子の義務的な声の会話が響く。


音も立てずに歩み寄ると、きちんと揃えられたプリントの山を机の上におく。
「・・・ああ、ご苦労だったな。」
そいつは何事もなかったかのように言ったつもりかもしれないが、声は震えていた。
「あ、それから。」
 
 
女の子は思い出したようにおれを見つめる。
無垢な翡翠の色の瞳だった。
「火影様が、すぐに来るようにって。伝言頼まれたの。」
「・・・・・・あ、ああ。」
おれは曖昧に頷く。


「それじゃあ、失礼しました。ほら、あんたも来るの。」
「え?あ、ああ・・・。」
女の子は礼儀正しくお辞儀をすると、おれに手招きをした。
あいつはなんともいえない表情で、俺達を見送った。



「あぶなかったわね。」
「は?」
職員室を大分離れたところで、女の子は口をひらいた。
「殴られるところだったでしょ?」
「ああ・・・。」


気づいてたのか。
おれは思いながら、女の子の横顔を見つめた。
「えっと・・・名前・・・。」
「サクラよ。春野サクラ。」
「あ・・・サクラちゃん。助けてくれたの?」
「ながれ的にね。あ、火影様のことは、嘘だから。」
「そう・・・。」


会話は続かなかった。
いつもみたいにおれははしゃげなかったし、女の子も話す気はないようだった。
でも不思議と、気まずさはなかった。


渡り廊下を歩っていると、女の子は空を見上げた。
「・・・雨。」
おれもつられるように上をみる。
少量ではあるが、確かに雨が降り続いていた。


「傘持ってこなかったわ・・・。」
女の子は小さく舌打ちをすると、きびすを返して玄関へと向かった。
独り言のような言葉におれは返事をせず、黙って後ろをついていく。


おれは、傘を持ってきていた。
小さな穴が2つあいているけど、ないよりはましだろう。
貸すべきなのか、おれは迷っていた。


あっという間に玄関につくと、女の子は下駄箱から靴を取り出す。
素早くはいてから、おれのほうに振り返った。


「何やってんの?」
考え事をしている顔で立ち尽くしていたおれに、女の子は呆れたような声を出した。
おれは、自分の黒い傘を差し出した。


「・・・これ。貸すよ。」
女の子は驚いたようにおれの傘を見つめた。
それから、まるで警戒するようにおれの目を見つめる。


「あんた、うずまきナルトでしょ?」


おれはその一言で悟ってしまった。
彼女はおれを知っていたのだ。
『化け物』と呼ばれ、みんなに嫌われているおれを。


貸すべきか貸さないべきか悩んだ理由。
前にも同級生の男に貸そうとしたことがあった。
男はおれの傘をじっと見つめてから笑った。


『化け物の傘なんてさすくらいなら、雨にうたれたほうがマシだぜ。』


男が悪いとは思わない。
悪いのは、『化け物』の自分だから。


女の子はじっとおれの目を見つづけている。
おれは、どうしようもなく虚しくなった。
できることなら、取り消したかったし、逃げ出したくもあった。
この姿は、惨めすぎる。


「あ、えっと・・・。」
慌てて差し出した傘を引こうとする。
なんと言えばいいのかわからなかった。


しかし、女の子はおれに歩み寄ると、そっと傘に手を伸ばした。
「サンキュ。でも・・・。」


女の子は傘をひらいてから、おれに向かってにっと微笑んだ。
「あんたが濡れちゃうでしょ。一緒に帰りましょ。」
「・・・。」


とっさに、言葉が出なかった。
女の子に微笑まれる、なんて、生まれてはじめての経験だったから。
それになにより、このまま死んでもいいほど、嬉しかったから。


「何やってんのよ。ほら、早く。」
「あ、ああ・・・。でも・・・。」
「帰る方向なら一緒よ。あんた私の家の近くじゃない。知らなかったの?」
 

女の子は苦笑すると、おれを傘の中へと導いた。
雨の中、2人並んで歩いていく 。


「傘、おれが持つよ。」
「私の方が背、大きいでしょ。」
「・・・。」
「牛乳もちゃんと飲みなさいよ。」
「・・・あい。」


馬鹿みたいな会話して、クスクス2人で笑う。
どうでもいい事を囁きあうこの時間は、おれ達だけの秘密の時間みたいだった。


サクラちゃんがどういうつもりで一緒に帰ったのか、真意はわからない。
同情だったのかもしれない。
しょうがないと思ったのかもしれない。
それでもよかった。



少なくとも彼女はこの傘を、『化け物の傘』とは思っていない。




何がやりたかったかというと、最後の一文。
これを書きたいがために書きました。
題名の『それだけで僕は救われる』は、本来この次にくる言葉ですね。

化け物の傘とは思っていない。
そう思っていれば、手にもったりしませんから。そういうことです。

私の中のナルサクの基本形は、ナル→サクなんで。
ほとんどナルト視点。救われるナルト。
『煙草のにおい』とこの小説が、ナルサクの原型になってます。

しかし、ナルサク・・・書きやすくって大好きだ・・・!!


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