冷たい手


 



「・・・疲れた。」
 
そろそろ夕日が沈みそうな時間になった。
公園のブランコにただ座っていたサクラは、ゆっくりと腰をあげる。
手で弄んでいた鎖が、『カチャ』という儚い音をたてるのをききながら、空を見上げた。
 
 
今日の任務は芋掘りだった。
相変わらずのDランク任務に、ナルトはあきることなく文句をいった。
確かに、こんなの忍びのやる仕事じゃない。
それでも、差はついた。
 
やっぱりサスケくんは何をしても完璧にやりこなす。
ナルトにしたって、体力だけは人並みはずれてる。
私は、すぐにバテてしまったのに。
 
 
炎天下の下での作業は思っていたよりきつくて。
ずっとしゃがんでいたから腰は、たまらなく痛くて。
おまけに今日は『女の子の日』で、貧血をおこして。
 
芋を掘るには力が必要で、手が真っ赤でヒリヒリするまでやった。
1つ掘るたびに眩暈をおこしたけど、私は口もきかずに懸命にやった。
よこでサスケくんとナルトが言い争うのを聞きながら、無言で芋掘りをやった。
 
 
そして最後に並べられた芋の数は、誰もが予想していた通り。
サスケくんとナルトがそれぞれ掘った膨大な芋と、私の掘った数少ない芋。
 
カカシ先生は苦笑いして私にいった。
『サクラは、体力つけないとダメだな。』
私は頭をかきながら、軽く舌をだして笑った。
 
 
本当は、ふざけんなって思ったけれど。
 
 
体力をつける修行ならば、毎日やっている。
朝早く修行をして、任務に行って、夜遅くまでまた修行をする。
休日なんて吐くほどきついことばかりしているのだ。
 
そして、努力の甲斐なく私は置いていかれる。
馬鹿のナルトと天才うちはの名前に。
カカシ先生は笑う。
『努力しろ。』
私も笑う。
 
 
ふざけんな。
 
 
 
チャクラのコントロールがよく出来ると褒められた。
私はコントロールの上手くいく修行など一度もしたことがない。
 
 
アカデミーの時、成績だけは絶対に一番をとりつづけた。
アカデミーの時寝てばかりだったシカマルは、IQ200の天才だった。
彼はその頭脳をかわれて、いち早く中忍になった。
 
 
私は毎日毎日、体力のつく修行をしている。
ジョギング、腹筋、背筋、バーベル運動、基礎トレーニング、集中短距離練習。
『毎日のコツコツした努力が大切なんだ。訓練を怠ってはいけない。』
カカシ先生が私の頭をなでながらいったその言葉に、声を殺して泣いた。
 
 
 
ふざけんな。
 
 
 
「なんで報われないのかしら。」
ゆっくりと紅く染まっていく空をみて、サクラは無表情に呟いた。
今日はいつもする修行をさぼってみた。
でも明日、カカシ先生は同じことをいうだろう。
 
『サクラは体力をつける特訓をしなくちゃな。自主練習も大切なんだぞ。』
 
安易ながらに恐らく当たっているであろう予想に、サクラはため息をつく。
自分のする努力など、してもしなくても結果は同じなのだ。
帰ろう、と思って一歩歩き出すと、よく知る顔が目に入った。
 
 
 
「あれ?サクラ。」
「・・・チョウジ。」
 
 
チョウジはほくほくと湯気のでる焼き芋をもっていた。
どうやら砂場の近くのベンチで食べようとしていたらしい。
サクラがじっと芋をみていることに気がつくと、チョウジは慌てて後ろに隠した。
 
 
「あ、あげないよ!僕の食べ物だ。」
「・・・別に欲しくないわよ。」
 
ただ、ちょっと嫌なこと・・・今日の芋掘りを・・・思い出しただけ。
サクラはそういうとチョウジの横を過ぎて、向こうにある出口に行こうとした。
ところがすれ違う瞬間に、チョウジがサクラの腕をつかんだ。
 
 
「なんか元気ないね。」
「・・・そう?」
「まあ食べなよ。」
 
チョウジはにこにこ顔でサクラを自分の横に座るように促す。
さっきまであげない、なんて言ってたくせに。
それでもチョウジの優しさに甘えて、サクラは仏頂面で横に座った。
 
 
「何があったの?」
「何もないわよ。」
「・・・いいたくない?」
「ない。」
 
きっぱりとサクラは返答すると、強引に焼き芋を頬張る。
熱さと甘味を感じながら口をもぐもぐ動かしていると、チョウジはため息をつく。
 
「サクラは意地っぱりだから、無理に聞き出すっていうのはやっぱり・・・。」
「無理でしょうね。」
「じゃあ仕方ないか。」
 
 
あっさりあきらめたと思うと、チョウジはにかっと笑う。
サクラはその予想になかった行動に少々ぎょっとしてしまった。
だがチョウジはそんなことを気にするわけでもなく、焼き芋にかぶりつく。
 
 
「僕、本当は今日ここで1人で焼き芋食べるつもりだったの。」
「・・・悪かったわね。邪魔して。」
「邪魔じゃないけど、サクラがいたから予定変更になったっていうのは事実でしょ。」
 
 
 
チョウジは立ちあがると、ぱんぱんとズボンを払ってサクラに手を出す。
驚きながらも条件反射で、ついサクラはその手の上に自分の手を重ねた。
チョウジは軽く力をいれたので、サクラは自然と立ちあがる。
 
 
「だからもっと予定変更して、今日はサクラと手をつないで帰ることにした。」
「・・・何それ。」
 
ぷっとサクラは吹き出す。
チョウジはにこにこと笑っている。
 
 
「予定変更になったのはこっちも同じよ。でもま、今日くらいはいいかもね。」
「よーし、それじゃあ家に向かって出発進行ー!!」
「調子いいんだから。」
 
 
サクラは笑いながら、チョウジの大きな手をそっと見つめる。
チョウジに手を握られるまでわからなかった。
自分の手は・・・凍えるほど冷たかったのだ。
 
 
「チョウジ、あんたラッキーだからね。」
「なんで?」
「ルーキー1の美少女と手をつないで帰れるんだから。」
「サクラだって。ルーキー1の美男子と帰れてよかったね。」
「・・・口減らずねぇ。」
「先にいったのはそっちでしょ。」
 
 
こんな風にひょうひょうとしているチョウジの手は、とっても暖かい。
大きくてどこかずんぐりしたその手は、サクラの手を包み込むように握っている。
なぜだか無性に嬉しくなって、サクラは強く手を握り返した。
 
 
「バーカバーカ。」
「・・・サクラって結構お子ちゃまだね。」
「まー!今ごろ気づいたのー!?」
「・・・そういうところが子供。頭いいくせに。」
「頭は『いいふり』をしてるのよ。」
「成績一番じゃん。」
「一番じゃないとイヤなのー。」
 
 
夕日はもう数分もしないうちに沈みそうだ。
オレンジの光が眩しすぎるほど街を照らす。
チョウジの手をぶんぶん振りながら、サクラは夕日をみつめて笑った。
 
 
「そうよ。私はなんでも一番がいいんだから。」
「僕は二番でも三番でもいいや。」
「私は一番がいいんだもーん。」
 
 
サクラは自分の口から出た素直な言葉に目を細める。
何を迷っていたんだろう。
わかっていたのに。本当の気持ちは。
 
誰にも負けたくない。
 
 
 
「そうとわかったら努力あるのみよー!!」
「がんばれー。」
「努力ってのはねえ、必ず報われるんだから。」
「そうだそうだー。」
「本当よ!あー、もう!!」
 
 
自分の手がどんどんチョウジの熱をうけてあたたかくなっている。
サクラはたまなくなって力いっぱい叫んだ。
 
 
 
「春野サクラは、二度と誰にも負けませーーーん!!」
「いいぞー。」
 
 
チョウジのやる気を感じない合いの手を聞きながら、サクラは大笑いする。
二度と誰にも負けない。
この言葉が本当に現実されるのかはわからない。
 
 
とにかくここまで進歩した自分に、もちろんチョウジに、感謝。
恥ずかしいし、チョウジも望んでいるわけではないだろうから、口にするのはパスだけど。
 
 
 
今日はこれからいつも以上の修行をして、明日もいつも以上の修行を続けていこう思っている。
少なくとも、もやもやは吹っ切れた。
今はそれで十分なのだ。
 
 
 
すっかりぽかぽかになっている手を大きく振りながら、サクラは心から微笑みつづけた。





チョウジとサクラが一緒だと、とっても嬉しくなります(私だけ?)
なんかほのぼのしてません!?かわいくありません!?
2人が結婚したら、サクラは『秋道サクラ』ですね。秋と春!素敵vv

文章についてはノーコメント。
冷たい手、というお題のキーワードの出方がわざとらしすぎて涙が出ます。
修行してがんばりますね。ジャワ!!



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