「今日も雨ねえ。」

サクラは窓をあけて少しだけ手を出す。
確認するまでもなく降りつづける雨は、少量ながらもとても冷たかった。

「雨は嫌い?」
サクラの後ろで大蛇丸が楽しそうにいった。
後ろを振り返りながらサクラは肩をすくめる。


「まあね。あなたは?」
「私も嫌いよ。」
「へえ・・・意外ね。」
「そう?」
「うん。絶対に好きそうだと思った。」


この大蛇丸と名乗る男がここにいる理由は、たった3日前ほどにある。
いつものように任務が終わったあと、サクラは修行のために森へとはいった。
鼻歌を歌いながら自分だけが知る修行場所へと向かっていた。
そして、手裏剣の的にしている木の前に、この男が座っていたのだ。

夕焼けだった。
季節では珍しく晴れた暖かい日だったので、すごく綺麗なオレンジだった。

染まる森や木々のなかに、その男は似つかわしくなかった。
サクラが来ることが気配でわかっていたのか、無言でこちらを見つめていた。


不気味な男だとサクラは思った。
どこが、と言われると難しいが、雰囲気がすでに恐ろしかったのだ。
普通なら見なかったことにして帰ればいいのだが・・・。
サクラにはそれができなかったのだ。


男は怪我をしていた。
それも顔を背けたくなるようなひどい怪我。

足を中心にやられていた。
おそらく、逃げられないようにと傷つけられたものだろう。
夕日が反射して最初は気づかなかったが、水溜りのように血が出ている。



「・・・うちに来る?」
気がつくと、サクラはそう声をかけていた。

男は目を見開いてから、油断なさそうにサクラの全身を眺めた。
それから瞳を睨み殺すような目で見つめてくる。

サクラは怖くて声が出なかった。
なので無言で男の目を見つめ返していた。
逃げ出したいほど恐怖を迫られているのに、不思議と足は震えなかった。


男はしばらくしてからにやりと笑った。
右の頬の傷から血が流れていて脂汗をかいていたが、余裕が溢れたような笑みだった。
「お願いしようかしらね。」



その大蛇丸という男がが居座ってから、3日たつ。

思わず舌打ちでもしたくなるような回復力だが、まだ足の血は止まっていなかった。
サクラが巻いたどこかいびつな包帯が痛々しく巻かれている。
それでも明日か、明後日には完治するだろう。

「サクラ。」
大蛇丸の声にサクラはゆっくりと振り向く。

サクラの家のサクラの部屋。
見慣れた光景。お気にいりの熊のぬいぐるみがベッドの上にある。
なのになぜか、拉致でもされたような気分になった。

「何よ。」
呼びかけに答えると、大蛇丸は微笑んだ。


「雨がやんだらここを出るわ。」

なんの前振りもなくそういわれたものだから、サクラは思わず息をのんだ。
冗談かと思ったが、大蛇丸の目は真剣に光っている。
のんだ息を、一度はいた。

「そう。」
それだけ返事をして窓の外を眺める。
さっきまで馬鹿みたいに降っていた雨は、いつのまにか弱弱しく、今にも止みそうになっていた。


「雨なんて、嫌いよ。」

小さなサクラの呟きに、大蛇丸は何を思っただろうか。
外をみているサクラには男の表情は見えないのでよくわからなかった。



どれくらいたっただろう。
相変わらず外をみていたサクラは、そっと俯いた。
急に目頭が熱くなって、景色が滲んだようにぼやけて見える。


サクラは静かに、自分自身に記憶を消す術をかけた。




目をあけると、雨はやんでいた。





最初は、違ったんですよ。
ていうかそもそも、『お題』の部屋は全部ギャグっていうか、明るいのにしようとしてたんです。
なのにこんなことになってしまいました。
あれー?
しかもツッコミどころ満載やね。(乾笑)


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