鬼
それは、Aランク任務の帰りだった。 カカシは死んだと思っていた敵に隙をみせ、背中に大きな怪我を負っている。 迂闊だった。正直、甘く見過ぎていたのだと思う。 出血が止まらない。 このままではまずいな・・・。 写輪眼のカカシが出血のため貧血で倒れていた。 なんて周囲に言われたら、末代までの恥じだ。 少しでも早く医療機関の整った病院に行きたかったが、それも報告書を出してからになる。 「あー。ちくしょう。」 誰にでもなく、空に言ってみる。 夜空にはカカシを慰めるかのように・・・もしくはあざ笑うかのように星が輝いていた。 ふと横を見ると、墓地がある。 そしてそこには、誰かの小さな人影があった。 人影はじっとこちらを見ているようだった。 ゆっくりと腕をあげてカカシを指差し、少女の声が呟いた。 「・・・鬼・・・。」 その小さな響きは、安易に静かな空間に響き渡った。 カカシは一瞬きょとんとしてから、何を思ったのか影に近づいてみることにした。 先ほどは暗くてよく見えなかったが、影の正体はどこにでもいそうな子供だった。 ただしそれは、その子供が、体に不釣合いな大きな面をつけていなければの話だ。 それも、恐ろしい形相をした鬼の面。 「こんばんは。」 どこか躊躇いがちに近づいてきたカカシに、お面の少女は先ほどとは違う明るい声で挨拶をした。 面をつけているのでその下の表情はわからない。 だが、『夜の墓地に鬼の面』といった不気味なキーワードとは縁のない、無垢な少女だということは明らかだ。 「こんばんは。」 どうして挨拶なんて返したのかはわからない。 けれど背中の傷や報告書を後回しにするほど、この少女に興味を持ったのは確かだった。 「君、こんな時間になにしてるの?」 「鬼ごっこ。」 カカシの予想に反して、少女はすぐに答えを返してきた。 気が狂った子供だと思っていたが、どうやた違うらしい。 「鬼ごっこしてるんだ・・・。じゃあ、お友達もいるのかな?」 「ううん。わたし一人だよ。」 「え?だって鬼ごっこだろ?」 「『鬼になるごっこ』なの。」 どうもうまく会話がかみ合わなかった。 変なことをいっているが、口調や声はしっかりしている。 おそらくおもしろくもないこの遊びを思いつき、親に黙って家から出てきたのだろう。 「それにしても、こんな時間に君みたいな子供が一人じゃ危ないなあ。」 「わたし大丈夫だよ。」 「でもね・・・。」 「だって、わたし鬼だもん。」 やはり会話がなんだかおかしい。 いや、本来子供とはこういうものなのかもしれない。 カカシは子供が好きではないが、忍びになりたての頃はDランクでよく子守りをした。 あやすのは、得意なのだ。 なので根気強くはなしてみた。 「君、おうちはどこにあるのかな?」 「おうちはあっちだよ。」 指差された方向には、ひときは大きな墓がひとつ。 「わたしは死者の魂を食べる鬼だから、あそこに住んでるの。」 だめだこりゃ。 さすがにカカシは頭をかかえた。 『死者に魂に鬼』 なんだって子供がこんな難しい言葉を知っているんだか。ろくな教育うけてないな。 カカシはため息をつくと、そのままきびすをかえそうとした。 ところが少女はカカシの背中をつん、と指でつつく。 そこはちょうど傷口だったので、カカシは声をもなく悲鳴をあげた。 「なにす・・・!!」 いいかけた言葉はさえぎられてしまう。 サクラによってかぶされた鬼の面によって。 「それ、あげるよ。」 鬼の面には穴がなかった。目の穴すらない。 暗闇が面の内側を支配していた。 「わたしが大きくなったら返してね。」 少女の声が、幻のように耳に残る。 慌てて面をとるが、もうそこには少女はいなかった。 反射的に視界を前にやると、桃色の髪が人魂のように闇の中ですっと消えるところだった。 残されたのは、呆気に取られたカカシと鬼の面だけ。 なんとなく行き場のないカカシは、面を顔につけてみる。 そしてぼんやりと、少女がいなくなったほうをじっと見つめていた。
後味わるぅ・・・。と思う人が何人もいることでしょう。私もなんかやな感じです。けっ。 こういう話は好きなんだけどなー。あれ? というわけで、おまけ作りました。 数年後。今度はカカ→サクで明るいお話。 気分を明るくしたい人はどうぞ。