ドクター


 



「ヒナタ。」
振り返ると、そこには懐かしい少女がいた。
いや、少女ではない。
もはや彼女は、完璧すぎるほど美しい、女になっていた。
 
「サクラちゃん。」
「久しぶりね。」
腰に届きそうな長い桃色の髪をなびかせながら、サクラちゃんは花がほころぶように私に笑いかける。
夢をみてるみたいだ。
私の頭はどこかでそんなことを考えながら笑いかえした。
 
 
 
「サクラちゃんは、医者になったんだってね。」
「そういうヒナタはアカデミーの教師でしょ?大変そうじゃない。」
3年ぶりの再会は唐突ながら、とても自然だった。
私達は一言二言話しただけですぐに喫茶店へ入っている。
 
サクラちゃんにはどこかそんな力があった。
どんなに仲良かったとしても、数年後の再会というものはどことなくぎこちなかったりする。
ところがサクラちゃんはそんなことがない。
 
まるで昨日会ったばかりみたいな、すぐに他人と適応する力があるのだと思う。
たとえば『誰なら信用できるか?』と聞かれたら、私はまっさきに彼女の名前をあげるだろう。
裏表のない性格は、女の私でさえ憧れてしまう。
 
 
「ヒナタ、美人になったわね。」
サクラちゃんは唇に引かれた薄いピンクのルージュを輝かせて言った。
そこに嫌味のようなものは一切ない。
 
「サクラちゃんこそ。見違えちゃったわ。」
それに比べて私の言葉は、なんと汚らしいんだろう。
綺麗には話せなくて、まるで浮き立ったように言葉が出てくる。
けれど、サクラちゃんは気にしたりせずに、笑いながらコーヒーを飲んだ。
 
 
「医者のお仕事は、やっぱり大変?」
私は内心焦りながら話題を変えた。
サクラちゃんにだけは、『無口な子』とか『暗い子』と思われたくなかった。
それはライバル心ではなく、嫌われたくないから。
 
「全然っていったら嘘になるけど、好きで選んだことだもん。楽しいわよ。」
「そっか・・・いいね。好きなことできて。」
私の返答に、にこにこしていたサクラちゃんは少し眉をひそめた。
そして真面目な顔で首をかしげる。
 
「ヒナタは今の仕事、好きじゃないの?」
「えっ・・・。」
悩んでいたことをズバリとつかれて、私はコーヒーをこぼしそうになる。
慌てて取り繕うとしたけど上手くいかず、静かに顔を俯かせた。
 
 
「・・・よく、わかんない。」
「そっか。」
サクラちゃんはどこか沈痛な面持ちで頷くと、子供のように笑った。
 
「なんで私が医者になろうと思ったか、わかる?」
「・・・うーん。怪我した人ととか放っておけないから、とかかなあ?」
「それもあるけど。」
一度苦笑すると、とっておきの宝物をみせるようにサクラちゃんは微笑んだ。
 

 
 
「あなたのおかげなのよ。」
「・・・・・・私?」
 
思いがけない答えだったのか、ヒナタは自分を指差して聞き返した。
私はは「やっぱり気づいてないのね。」と笑って、またコーヒーを飲む。
 
「初めて受けた中忍試験、覚えてる?あなたとネジさんが戦った。」
「うん。」
「倒れたあなたを見たあの時、私、何も出来なかったわ。」
 
私は頭の中にあのときの状況を思い浮かべた。
どんどん悪くなっていくヒナタの顔色。
先生達の、早く医療班を呼べ!という叫び声。
心臓がバクバクして、まるで現実世界から取り残されたように感じた。
 
医療についての知識は、多少あったつもりだった。
何度も本を読んだし、模擬的な実習もした。
 
 
だけど、私は横たわるヒナタを前に、何もできなかった。
どうにか手を伸ばそうとしたときには医療班がきて、ヒナタを担架に乗せて運んでいた。
私は呆然と立ち尽くしてしまった。
 
そのあとにもたくさんあった。
怪我をしていく人達・・・とくにリーさんを見たときもそうだった。
呪印に侵されていくサスケくんをみたときだってそうだ。
 
何かしてあげたいのに、どうにかしてあげたいのに。
何もできない自分がいた。
もどかしいのに、体が動かなかった。
毎日みんなの入院している病院を回ったのは、そういう自分への慰めとか、罪滅ぼしのようなものがあった気がする。
 
色々あったけど、きっかけはヒナタだったのだ。
ヒナタの自分の忍道を貫こうとする姿にも、影響されたのかもしれない。
 
 
「あなたのおかげで、私はずいぶん変われたと思うの。」
 
 

 
サクラちゃんは少し照れくさそうに笑うと、上目遣いで私を見つめた。
「ヒナタには、感謝してるわ。」
「・・・・・・。」
私はぼんやりとサクラちゃんを見つめかえす。
 
例えば憧れている人に、自分の名前を覚えてもらっていたとき。
自分がこっそりよくできたなあって思うところを、誰かに褒めてもらったとき。
心細い夜に誰かが手を差し出して、手を繋いで寝ようって言ってくれたとき。
 
そんな感じがした。
嬉しかったんだ。
 
 
「あ、しまった!!!」
サクラちゃんは腕時計をみて慌てて立ちあがった。
「もうこんな時間!!これからオペはいってるんだった!!ゴメンね、なんかバタバタしちゃって。」
 
手を合わせると、また今度ゆっくり話そうね、と行ってレジへ向かっている。
あれ、と思って伝票をみると、私の分もなくなっていた。
 
「やだ、サクラちゃん!私がおごるわよ!」
「いいのいいの。なんか恥ずかしい話し聞かせちゃったし。」
サクラちゃんは小さく舌を出すと、手を振って走り出した。
 
「それじゃあねまたね、ヒナタ。」
「・・・うん、またね。」
私も手を振って見送りながら、彼女が人ごみに流されてしまったところを見つめる。
 
 
最初に変われるきっかけをくれたのは、ナルトくんだった。
ナルトくんの一生懸命な姿は、私に力を与えてくれた。
私は、ナルトくんが大好きだった。
 
ナルトくんがサクラちゃんを好きだってことは、みんな知っていた。
サクラちゃんは気づいていないみたいだったけど。
私は心のどこかで、サクラちゃんを妬んでいたのかもしれない。
 
だからこそ、ナルトくんが好きなサクラちゃんには、嫌われたくなかった。
もしサクラちゃんがナルトくんに、私のことを嫌いだって言ったら。
きっとナルトくんも私を嫌いになるから。
 
それが、どうしようもなく怖かった。
 
変な感情だ。
サクラちゃんがそんなこというはずないのに。
裏表のない彼女の性格は、ちゃんとわかってるはずなのに。
 
 
気がついたら、涙が零れてた。
立ち止まっていた自分にもう一度力をくれたのは、サクラちゃんだ。
サクラちゃんのまっすぐな気持ちが、私を歩けるようにしてくれた。
 
「もう、立派なお医者さんだね。」
 
 
 
『今度あったら、きちんとありがとうって、伝えよう。』





どうしてもサクラちゃんが中忍試験のことを思い出すシーンが書きたかったので、無理に二人称。
サクラちゃんばっかり美人だのなんだのと書いてるけど、ヒナタも美人さんですよ!!
ただ、ヒナタは自分のことをマイナスに見ちゃう傾向があるじゃないですか。
だからあえてこうしたまでです、はい。
最後の『』の中は、2人のセリフってことで。



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