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煙草のにおい
            
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寂しげな放課後の公園。
そこに自分を主張することのないブランコがある。
それを小さく揺らしながら、ナルトという少年はそこに座っていた。

彼の日課はここで夕日を見ることだった。
丁度目の前に見える山の中へと日が吸い込まれていくところ。
それからぐっとあたりが静かになる。

彼はいつもそれを、あきることなく見つめていた。
そして完全に日が沈んでから、少年はキイ、とブランコをこいでから立ち上がるのだ。
誰もいない家へと。


今日も。
彼は同じようにブランコへとやってきた。
ところが、すでに人がいる。

一瞬大人とか・・・自分を嫌う大人かと少年は身構える。
だがそれは同じくらいの背格好の少女であるとを確認すると、ゆっくりと近づいていった。


少女は1人で前を見ていた。
ブランコで遊んでいるわけではない。
ただ、そこに座っていた。

少年は再び足を止める。その表情が、あまりにも大人びていたので。
すぐに少女がこちらを振り向いた。
しばらく、目線が絡み合う。


淡桃色の髪は、あまりにも静かにオレンジを浴びていた。
日の光は、少女の瞳の中にもひっそりと入り込んでいる。

その瞳は、濁る事のない翡翠の色だった。思わず息をのむ。
少女はそれが合図だったかのように、にこりと微笑んで少年を横へ促した。

横のブランコに、少年はなぜか怯えながら座る。
少女はそれでも少しの間少年を観察するように見つめていた。

少年はずっと下を向いていたが、やがて少女が目線をはずしたことを感じた。
少女は同じように黙りこくっている。
それから、自分の腰についたポシェットを探り始めた。


目が合わないように、と少年は横を見る。
少女は四角い小さな箱を取り出した。そして、そこから細長い白い棒を抜く。

少年はそれがなんだかを知っていた。
自分を嫌う、そして自分も嫌っている大人達が吸っている物。
煙草だった。


「あの・・・。」
「何?」
たまりかねずに少年は声をかける。
少女は驚くこともなく返事をすると、慣れた手つきで火をつけて口にくわえた。

「あの・・・。」
「何よ。」
少女がやっとこちらを見る。
言いたい言葉を、少年は思わずぐっとのんだ。

「おれはナルト。」
「知ってるよ。」
少女はふう、と煙をはく。
その色は真っ白で、重力に逆らうように軽々と天へ上っていった。


「それ、煙草だろ。子供はすっちゃいけないんだよ。」
「知ってるよ。」
答えは、まったく同じだった。言葉も、言葉に込められている感情も。
まるでなにもかも見透かしたような、涼しい声で。
それは大人の声だけど、少年が知る物ではなかった。


少女は少年から顔をはずして前を見る。
少年もつられるように前を見つめた。

ちょうど夕日が沈むところだった。
山の間に押しつぶされるように沈んでいく。
少年は唐突に、少女も夕日を見に来たのだということを確信した。

日は、あっけなく沈みきってしまった。
あたりは薄く暗くなる。
その色は、少年が一番好きな闇の色だった。


「ねえ、あんたこそ知ってる?」
少女が急に話し掛けてくる。
一瞬少年は緊張してしまった。まっすぐに少女がこちらを見つめているから。
「何?」
さきほどの少女のように聞き返した。

少女はゆっくりと、くわえていた煙草をはなす。
そしてたっぷりと口から煙を出した。
煙もさっきと同じように、いや、今度は闇の中に浮かぶように空へ消える。

「何なの?」
じれったくなって少年は口を開く。
少女は煙草の持ち方を少しかえてから、真っ赤な火をこちらへ突き出した。
そして微笑む。


「これ、すごく熱いんだよ。」
あまりのことに、少年は息をのむ。
「・・・そんなの、知ってるよ。」
突きつけられた小さな炎は、そう遠くない日のことを思い出させた。


大人の1人が、自分にその燃える先端を押し付けた日のことを。
恐怖と熱さに慌てて身を引く。
大人は泣いていた。

何を叫んでいたのかは知らないが、こういったのだけは覚えている。
「お前のせいで、おれの親父は・・・おれの親父は・・・!!」

それを聞いて、少年は眉をひそめた。
なんて醜い泣き顔だろう。

別の大人がそいつを取り押さえる。
そこしか覚えてない。
もうあの大人にあっても、わからないだろう。


少年は小さく息をはいた。ため息ではない。ただ、はいた。
目の前では相変わらず炎が燃えている。

少女はまだ探るようにこちらを見つめていた。
少年は体の隅々を見られているようで落ち着かなかい。
それからやっと煙草を自分の口にくわた。

「いい目してんね、あんた。」
にっと爽やかに笑う。
少年は自分の体の動きが止まったような気がした。

どこかの大人たちがいった、『恋におちる』という言葉がよぎる。
そう。
多分少年はこのとき、少女を恋した。


少年の想いに反して、少女はブランコから立ち上がった。
「あの!」
少女が帰ろうとしているのだとわかると、知らないうちに少年は引きとめた。
少女はゆったりと振り返る。

「名前・・・きいてない。」
「私?」
少女は自分を指差す。少年が黙って頷くと、少女は再び前を見た。

顔が見えないことで、少年はいきなり不安になる。
が、すぐに少女の声が耳に届いた。

「サクラ。」
「サクラ・・・?」
少年は小さく繰り返す。

「呼びすてしないでよ。」
「あ・・・サクラちゃん・・・。」
「そう。」
少女はやはりもう振り向かずに、すたすたと歩き始めた。

公園をもうすぐ出るな、というころ、少女はこちらを振り向いた。
あたりは暗くて、その表情はわからない。
少年は生まれて初めて、闇を呪った。

「覚えなくていいよ。」
その小さな囁きは、甘い風にのって少年の耳をかすった。
あっという間に淡桃色の髪は身を翻す。
次の瞬間には、もう見えなくなってしまった。

少年は夢をみたようにぼんやりと立ち尽くす。
ただただ、立ち尽くしていた。


その後、少年は意識をするからか、よく少女を見かけるようになった。
少女は優秀で、とても頭がいい。
はっきりと自分の意見をいう、明るくて優しい少女だった。
煙草なんて決して吸っていない。

やはり夢だったのではないかと思う反面、あの日のことは頭に焼きつくようにのこっている。
煙草の火を押し付けられたように。

同じように少年は、少女に恋をしたことも忘れない。
もちろん少女の名前だって、忘れることなど出来なかった。
 


こらこら〜!
未成年は煙草なんて吸っちゃいかーん!!(風紀委員長)

ということで。
理科の時間に突然思いつきました。
いつかはかきたかったんです。
ナルトとサクラちゃんの出会いvv
ってこれがかよ!!
とにかく。
お付き合いしていただき、ありがとうございました。



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