☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 煙草のにおい ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
寂しげな放課後の公園。 そこに自分を主張することのないブランコがある。 それを小さく揺らしながら、ナルトという少年はそこに座っていた。 彼の日課はここで夕日を見ることだった。 丁度目の前に見える山の中へと日が吸い込まれていくところ。 それからぐっとあたりが静かになる。 彼はいつもそれを、あきることなく見つめていた。 そして完全に日が沈んでから、少年はキイ、とブランコをこいでから立ち上がるのだ。 誰もいない家へと。 今日も。 彼は同じようにブランコへとやってきた。 ところが、すでに人がいる。 一瞬大人とか・・・自分を嫌う大人かと少年は身構える。 だがそれは同じくらいの背格好の少女であるとを確認すると、ゆっくりと近づいていった。 少女は1人で前を見ていた。 ブランコで遊んでいるわけではない。 ただ、そこに座っていた。 少年は再び足を止める。その表情が、あまりにも大人びていたので。 すぐに少女がこちらを振り向いた。 しばらく、目線が絡み合う。 淡桃色の髪は、あまりにも静かにオレンジを浴びていた。 日の光は、少女の瞳の中にもひっそりと入り込んでいる。 その瞳は、濁る事のない翡翠の色だった。思わず息をのむ。 少女はそれが合図だったかのように、にこりと微笑んで少年を横へ促した。 横のブランコに、少年はなぜか怯えながら座る。 少女はそれでも少しの間少年を観察するように見つめていた。 少年はずっと下を向いていたが、やがて少女が目線をはずしたことを感じた。 少女は同じように黙りこくっている。 それから、自分の腰についたポシェットを探り始めた。 目が合わないように、と少年は横を見る。 少女は四角い小さな箱を取り出した。そして、そこから細長い白い棒を抜く。 少年はそれがなんだかを知っていた。 自分を嫌う、そして自分も嫌っている大人達が吸っている物。 煙草だった。 「あの・・・。」 「何?」 たまりかねずに少年は声をかける。 少女は驚くこともなく返事をすると、慣れた手つきで火をつけて口にくわえた。 「あの・・・。」 「何よ。」 少女がやっとこちらを見る。 言いたい言葉を、少年は思わずぐっとのんだ。 「おれはナルト。」 「知ってるよ。」 少女はふう、と煙をはく。 その色は真っ白で、重力に逆らうように軽々と天へ上っていった。 「それ、煙草だろ。子供はすっちゃいけないんだよ。」 「知ってるよ。」 答えは、まったく同じだった。言葉も、言葉に込められている感情も。 まるでなにもかも見透かしたような、涼しい声で。 それは大人の声だけど、少年が知る物ではなかった。 少女は少年から顔をはずして前を見る。 少年もつられるように前を見つめた。 ちょうど夕日が沈むところだった。 山の間に押しつぶされるように沈んでいく。 少年は唐突に、少女も夕日を見に来たのだということを確信した。 日は、あっけなく沈みきってしまった。 あたりは薄く暗くなる。 その色は、少年が一番好きな闇の色だった。 「ねえ、あんたこそ知ってる?」 少女が急に話し掛けてくる。 一瞬少年は緊張してしまった。まっすぐに少女がこちらを見つめているから。 「何?」 さきほどの少女のように聞き返した。 少女はゆっくりと、くわえていた煙草をはなす。 そしてたっぷりと口から煙を出した。 煙もさっきと同じように、いや、今度は闇の中に浮かぶように空へ消える。 「何なの?」 じれったくなって少年は口を開く。 少女は煙草の持ち方を少しかえてから、真っ赤な火をこちらへ突き出した。 そして微笑む。 「これ、すごく熱いんだよ。」 あまりのことに、少年は息をのむ。 「・・・そんなの、知ってるよ。」 突きつけられた小さな炎は、そう遠くない日のことを思い出させた。 大人の1人が、自分にその燃える先端を押し付けた日のことを。 恐怖と熱さに慌てて身を引く。 大人は泣いていた。 何を叫んでいたのかは知らないが、こういったのだけは覚えている。 「お前のせいで、おれの親父は・・・おれの親父は・・・!!」 それを聞いて、少年は眉をひそめた。 なんて醜い泣き顔だろう。 別の大人がそいつを取り押さえる。 そこしか覚えてない。 もうあの大人にあっても、わからないだろう。 少年は小さく息をはいた。ため息ではない。ただ、はいた。 目の前では相変わらず炎が燃えている。 少女はまだ探るようにこちらを見つめていた。 少年は体の隅々を見られているようで落ち着かなかい。 それからやっと煙草を自分の口にくわた。 「いい目してんね、あんた。」 にっと爽やかに笑う。 少年は自分の体の動きが止まったような気がした。 どこかの大人たちがいった、『恋におちる』という言葉がよぎる。 そう。 多分少年はこのとき、少女を恋した。 少年の想いに反して、少女はブランコから立ち上がった。 「あの!」 少女が帰ろうとしているのだとわかると、知らないうちに少年は引きとめた。 少女はゆったりと振り返る。 「名前・・・きいてない。」 「私?」 少女は自分を指差す。少年が黙って頷くと、少女は再び前を見た。 顔が見えないことで、少年はいきなり不安になる。 が、すぐに少女の声が耳に届いた。 「サクラ。」 「サクラ・・・?」 少年は小さく繰り返す。 「呼びすてしないでよ。」 「あ・・・サクラちゃん・・・。」 「そう。」 少女はやはりもう振り向かずに、すたすたと歩き始めた。 公園をもうすぐ出るな、というころ、少女はこちらを振り向いた。 あたりは暗くて、その表情はわからない。 少年は生まれて初めて、闇を呪った。 「覚えなくていいよ。」 その小さな囁きは、甘い風にのって少年の耳をかすった。 あっという間に淡桃色の髪は身を翻す。 次の瞬間には、もう見えなくなってしまった。 少年は夢をみたようにぼんやりと立ち尽くす。 ただただ、立ち尽くしていた。 その後、少年は意識をするからか、よく少女を見かけるようになった。 少女は優秀で、とても頭がいい。 はっきりと自分の意見をいう、明るくて優しい少女だった。 煙草なんて決して吸っていない。 やはり夢だったのではないかと思う反面、あの日のことは頭に焼きつくようにのこっている。 煙草の火を押し付けられたように。 同じように少年は、少女に恋をしたことも忘れない。 もちろん少女の名前だって、忘れることなど出来なかった。
こらこら〜! 未成年は煙草なんて吸っちゃいかーん!!(風紀委員長) ということで。 理科の時間に突然思いつきました。 いつかはかきたかったんです。 ナルトとサクラちゃんの出会いvv ってこれがかよ!! とにかく。 お付き合いしていただき、ありがとうございました。