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花瓶

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サクラは、みんなから愛されてるわ。
 
頭はいいし、性格も明るくて正義感もあって。
とくに、顔なんてすっごくかわいいからね。
しょっちゅう男の子から告白されてるのよ。あの子、言いふらしたりしないけど。
天狗になったりしないからね。
だから女子からも人気があるのよ。
 
そんな子だからさ。当然ねたむようなやつもでてくるってわけ。
そいつらはいつでもサクラを責めるときを狙っていたの。
まるで小鹿を狙うハンターみたいにね。
いつでも草陰にかくれていて、隙があれば一気に駆け出してくるの。
迷いもなく、一気に銃の引き金を引く・・・。
 
あれは確か、アカデミー2年生のとき。
つまり、わたしもサクラも7歳のとき。
 
その時間は、確か分身の術をやっていたんだと思う。
よく覚えていないけど。
わたしはその時、たしか担当の女の先生の髪と、今朝わたしがもって来た花を見ていた。
 
きれいなピンクのガーベラで、みんなにみせてあげたかった。
わたしの家、お花屋さんだから、お母さんに頼んできれな包装紙に包んでもらってね。
両手で、ていねいに持って来たんだ。
 
その花をみていた。
頭にあるその景色は全部モノクロだけど、花と、突然立ち上がったサクラにだけは色がついている。
 
勢いよく席をたったサクラを、みんなもわたしも驚いた目でみていた。
先生がサクラに、どうしたの?って聞いた。そしたら妙にきっぱり言ったの。
「お花の水をかえてきます。」
ってね。
本当になんだろうって思ったわ。
普段からこんなこという子でもなかったし。
 
先生が何か言う前にずんずん歩って棚に置いてある花瓶をもちあげると、サクラは急につまずいた。
そしたら、ピンクのがーベラは飛び散ってしまい、取り替えたばかりの水は、サクラの前に座っていた女の子のスカートにかかった。
もうびしょぬれで、女の子は泣いてるし、サクラは空っぽになった花瓶も持ちながら何度も謝ってたわ。
 
先生は女の子を保健室へつれていった。
とたんに教室は騒ぎ声でいっぱいになる。
「サクラー、あんた、ひどいんじゃない?」
「そうよそうよ、かわいそうよ。」
待ってましたと言わんばかりに、クラスで目立つほうの3人の女子がサクラの机を取り囲んだ。
わたしは、床に落ちてしまったガーベラを慌てて拾いにいった。
 
「なんとかいいなさいよ、デコー!」
リーダー格の1人がサクラの髪をひっぱった。
「いたっ・・・。」
「悪いのはあんたでしょ〜、ほら、お花も台無し〜。」
「いのちゃんに謝んなさいよ。」
サクラは引っ張っている手を払うと、わたしのほうへ寄ってきた。
「いのちゃん・・・。」
すごく小さな声。わたしは黙ってきく。
「お花、本当にごめんね・・・えっと、これ・・・コスモス?」
「ガーベラだけど。」
間違っていたから、ほとんど反射的に言い直してしまった。
わたしに悪気はなかったけど、意地悪3人組は大喜びで爆笑している。
サクラは真っ赤になりながら、ゴメンといった。
 
「ゴメンじゃないわよ、デコリン!」
「ほら、土下座しなさいよ、土下座ー!!」
無理やり頭を床に押し付けられると、サクラは悲鳴をあげた。
「いや!痛い!やめてよ!」
「あんたに物をいう権利なんて無いんだよ!」
 
教室は少しざわざわしているだけで、誰もそれについては何も言わない。
わたしは、座っているわたしより低いところにいるサクラの、涙がにじんだ目を見ていた。
手が震えていて、怖くて、たまらなく怖くて、ぎゅっと強すぎるほどガーベラを握った。
 
「謝れ、デコブス!!」
 
そこで、教室の扉がガラガラとひらいた。
いたのは担当のあの女の先生だった。
教室はしーんと静まり返る。サクラもわたしも3人組も、他の人もみんな固まったように動かなかった。
 
先生はなんだか気まずそうに全員を見渡した。
もちろん、サクラは3人によって土下座させられた格好のままだ。
コツコツと音を立てて先生は教卓の前に立つと、持っていた資料を見ながら言った。
 
「授業を再開するから、みんな席についてください。」
 
その声に怒気は含まれていなかった。
まず3人がスタスタと席に戻り、わたしも戻った。
サクラだけは呆けたような、あ然とした顔で先生を見ていた。
乱れた髪に、透明の涙を頬に流しながら、先生を見ていた。
 
「春野さん。」
それは優しい口調だったけど、次はなぜだか、怒った声になっていた。
 
「席につけといっているのが、聞こえないの?」
 
サクラのほうを見もしないで、言い放ったのは、絶望的に、冷たかった。
部屋のはじから、クスクスと笑い声がでた。
それでもサクラはふらふらとした足取りで席へ戻った。わたしは膝の上のスカートを、ぎゅっとつかんだ。
当然一番つらいのはサクラなのに、なんでかわたしが泣き出しそうになってしまった。
 
それから、毎日サクラはいじめられていた。
わたしもみんなも、先生も、見てみぬふりをしてた・・・。
 
1年たった。
わたしはそれからすべてを、真実を知った。
サクラに、花瓶の中の水をかけられてしまった女の子から。
 
『ねえ、いのちゃん。相談したいことがあるの・・・。』
ひときはひどかったサクラいじめがあった休み時間が終わると、その子からそんな手紙が回ってきた。
この時間は忍術の中でも簡単で、かつ重要な防御の術だった。
先生が厳しくない人だから、みんな授業中に手紙の交換なんかも普通にやっていた。
 
わたしは青いカラーペンでかかれた下の余白に、濃い黄色のペンで返事を書く。
『何?わたしでよかったらなんでも相談にのるよ?』
 
小さく折りたたむと、横の子にまわしてもらうように頼む。
たいして真面目でもない子で、わたし達と同じように手紙交換をしているから、迷惑ではないはず・・・でしょ?
返事はわりとすぐに返ってきた。紙が変わっていて、シャボン玉が端にかいてある手紙には、こうかかれていた。
 
『去年、わたし、サクラちゃんに花瓶の中のお水、かけられちゃったんだ。覚えてる?
 実は、わたしね、あのとき、おもらししちゃってたの・・・。授業中だから、先生に言いに
 くくて・・・。
 サクラちゃん、わたしの前の席でね。わたしが小さい声で泣き始めたら、気づいてくれて。
 水をかけて、わからないようにしてくれたんだ。
 ねえ、いのちゃん、わたし、どうしたらいいんだろう?』
 
読み終えたいのは真っ青になっていた。なんてことだ。
サクラは、本当に、何も悪くない。
何のに、どうしてこんなつらい目にあっているの?
どうして、わたしは一年間も止めなかった?彼女はどうして、真実をいわなかった?
 
わたしは返事もかえさないで、ずっと震える手で・・・あのとき、ピンクのガーベラを握っていたように・・・震える手で、手紙をもっていた。
気がついたら、その時間の授業は終わっていた。
 
次は野外授業で、生け花だった。
わたしはぽつんと1人で居るサクラの元へと寄って行った。
何も言わないで横に立つと、すぐにサクラはわたしに気づいた。
「あ、いのちゃん・・・。」
言葉を交わすのは、1年ぶり。たしか、ううん。忘れたりしない。
『お花、本当にごめんね・・・えっと、これ・・・コスモス?』
あの言葉から、1年・・・。
 
「あ、あの!!」
勇気を振り絞るように言うサクラに、ほんの少し、わたしは緊張した。
 
「ガーベラ、だめにしちゃって、ごめんね!!」
 
とっさに、わたしは逃げた。サクラに背を向けて。サクラのいるところから。
汚いわたし。
サクラは、すごくきれい。きれいなきれいな、あのピンクのガーベラみたいに。
泣いた。わたしは、ただただ泣いた。
 
わたしが悪いの。サクラを救えなかった。
わたしが、あのガーベラを、だめにしてしまった・・・。
 
「いのちゃん!!」
 
慌てておいかけてきたサクラは、気まずそうに言葉を捜している。
「あ、あの・・・何か、気に障ることいっちゃった?わ、わたし・・・。」
「もういいの。」
 
言いかけたサクラの言葉を遮る。わたしは涙をふき取る。
ピッと指で雫を払うと、そのしょっぱい水は、広がる草の中へ浸透していった。
 
「サクラ、本当にごめん。」
「え?」
「ごめん、本当に・・・。」
「ど、どうしたの?いのちゃん・・・。」
謝りつづけるわたしを、サクラは困り果てたように、わけがわからないというふうにみる。
 
「ゴメン、ゴメン、サクラ、本当に・・・。」
「いのちゃん・・・。」
今度はサクラがわたしの言葉を遮る。
下を向いていたわたしの顔を、サクラの白い手が両手でやわらかく包み込んだ。
 
「何があったのかわからないけど、いいから・・・。」
「サクラ・・・。」
「本当に、いいから・・・。」
 
温かいサクラの手。優しい顔。
 
わたしは守る。
とても儚くて壊れやすいサクラを。
今度はだめにしたりしない。
 
サクラは、わたしが守る。
 
 



 
かなりベタな話ですね。
すっごい中途半端。最後とかテキトー(汗
ってか暗い!!かなり嫌だった!(おい)
 
実は。この話には、もうひとつのエピソードがあるはずでした。
 
それは、授業は男子と女子の合同授業で、サクラの横はサスケ。
サクラと同じようにおもらしに気づいたサスケは、先生に言おうとします。
が、サクラはそれを手で制し、彼女に花瓶の水をかけた。
 
サクラの配慮に気づいたサスケでしたが、サクラはいじめられ、先生も注意しない。
絶望を感じたサスケは、それから女の子につらくあたるようになり、教師の立場にあたる人に『先生』をつけなくなる。
だからカカシ先生のことを呼び捨てでカカシと呼ぶ・・・と。
そんな感じ。
 
もちろんサスケはそれからサクラちゃんが好きに・・・ってね。でもやめました(爆)
そういう話になると、サスケがいじめられたサクラをどうして止めなかったか・・・ということになります。
私はその理由が思いつかない!!というわけでした。



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