☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 幻想天華 11 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
カカシは一人で歩きながら考えていた。 いつからだろう。 虹を見ても、雪を見ても、綺麗だと思わなくなってしまったのは。 気づくことすらなくなってしまったのは。 サクラは才能があった。 しかし、それを捨てて人から苦しみをなくそうと努力している。 敵が死なないということは、この忍びの世界ではありえないから。 死んでしまうなら、せめて痛みや後悔を忘れて。 美しい思い出に抱かれて死んで欲しい。 それが、サクラが涙ながらに思いついた『すべき事』。 おれはどうだ? カカシは自分に問い掛ける。 人を殺すことに、なんの躊躇いもなくなったのは、いつ頃だっただろう? 人が死ぬことは当たり前だと思っていた。 血のにおいが、任務の・・・自分のにおいになっていた。 多分、サクラたちよりも小さな頃から、感情を捨ててしまっていたのだ。 だから。 羨ましかった。 強くなる事を捨てても、心を失おうとはしなかったサクラが。 小さな事でも、純粋に『綺麗だ』と思えるサクラが。 羨ましくて。 そして・・・。 「・・・あ。そっか。」 カカシはふと足をとめる。 空を見上げてから、ぽりぽりと頭をかいた。 「おれ、サクラが好きだったんだ・・・。」 今更だ。 『好き』とか、そんな感情、捨てきっていたと思っていたのに。 気づかないうちにまた舞い戻ってきていたんだ。 「うわあー・・・おれってすっごいバカだ。」 それなら、すべてが理解できるのに。 サクラが自分に気づかれないように使っていた術を、血を流してまで知りたいと思ったことも。 殺しの才能を生かさせないで、幻術を使ってもいいと、サクラが望む返事をしてやったのも。 4年たった今でも、サクラのことが忘れられないでいたのも。 「ま、遅いんだけどね。」 サクラには、もう心の中に大きな存在が座っている。 自分ではとても太刀打ちできないほど、巨大な存在。 「・・・だけど。」 なくしてしまった感情を再び取り戻すことができたわけだし。 ・・・いいとするか。 「サクラのおかげかなー。」 その呟きはよく響くけど、彼女には届かない。 これからもずっと。 もちろん、伝えようとも思わないけど。 伝えたら、彼女は困ってしまうから。 それにこの『好き』は、一緒になって欲しいという『好き』じゃない。 そういうのじゃなくて。 好きだから、幸せになってほしいのだ。 「なーんか吹っ切れたって感じ?」 いつからだろう。 その美しさを忘れてしまったのは。 徐々にでいい。 焦らなくたっていい。 少しずつでいいんだから。 すべての感情も、きっと取り戻せる。 カカシは微笑してから、一歩一歩、確実に歩き出した。
なんだか妙にカカシ先生がすっきりキャラになってしまった・・・。 これで一段落ですね。 残すところももうちょびっとです。